海へ行きましょう

猫の肉球の感触を楽しむような、そんなブログを本当は書きたいのだが

裁判傍聴のすゝめ① 覚せい剤

 

こんばんは。

みなさま、今日の夜ご飯はなんですか?


さて、私事になるが私は今年公務員試験を受けようと考えているため、これまでの人生でまったく触れてこなかった法律を勉強している。ただゆったりしすぎたため、そろそろ尻に火をつけて勉強に励まなければ受かるもんも受からない……(遠い目)。
まあ個人的な状況はいったん脇に置き、法律についての話。

「け、憲法……! お硬い文章にアレルギー反応が」と、最初は恐る恐る勉強をはじめたが、ふたを開けてみるといかんせん知的好奇心が旺盛なため、思っていたよりはおもしろかった。まあ、だるいことに変わりはないが。

そこで、「じゃあ実際に法律が使われているところを見てみるか!」という気持ちになり、友人を誘って先日、東京地方裁判所に行ってきた。
そして語弊を恐れずに言うと、まあ驚くほどおもしろかったので、この場を借りてみなさまに伝えさせていただきたい。

 

2019年1月某日、霞が関駅A1出口を出てすぐ右手にあるでっかいビル―――東京地方裁判所を私たちは訪れた。


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一般用の入り口を抜けると、まずは手荷物検査だ。ゲートを通り検査を終えると、その先に電子パネルがあり、その日開廷予定の裁判のスケジュールを見ることができる。
スケジュールの写真を撮るのは禁止なので、興味のある裁判をそこでメモする。

 

私たちは、「刑事裁判」で「新件」の裁判に絞ってメモを取った。
なぜ「刑事裁判」で「新件」なのかというと、口頭陳述が盛んで見どころが多いのと、起訴状などの読み上げがあり事件の全容をつかみやすいからだ。

また、そこら辺の詳しい理由や裁判傍聴のポイントは、こちらの『初心者でも分かる! おすすめの裁判傍聴の仕方、方法!』に書かれているので、この体験レポートを読んで裁判傍聴に行ってみようかなと思われた方は、このレポートを読んだ後に(!)是非チェックしてみてください。

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harukin.com

 

さて、私たちは、
① 13:30~14:30 覚せい剤
② 14:30~15:30 大麻
③ 15:30~16:30 窃盗
の3つの裁判を傍聴した。それでは、順を追って書いていこう。

 

まずは傍聴記録① 「覚せい剤」。

 

が、初めての裁判傍聴で右も左もわからない私たちは、部屋の前に貼ってあるスケジュールを見ずに、開廷10分前に入室してしまった。そして入った直後は気づかなかったのだが、実はまだ前の裁判の途中だった(ただし途中入室自体は問題ない)。なぜなら入室して2分ほどすると、裁判長が部屋に入ってきて判決を読み上げ始めたからだ。

 

その裁判の主題は、公然わいせつ罪だった。
被告人は、50代後半くらいの後頭部の禿げかかった小さな男性。判決を聞くところによると、どうやら被告人は、混み合った電車内で自らの性器をボロンッ! と露出し、居合わせた女性らに不当に恥ずかしい思いをさせたことを罪に問われていた。「女性が恥ずかしがる姿を見て性的興奮を覚えた」との供述もあったようだ。
私は裁判長の前に立って判決を聞く男性の小さな後姿を見ながら、なんとも言えない悲しさを覚えた。

 

思い返せば女子高時代も、私自身は会ったことはないけれど、登下校のルートにたびたび「性器露出おじさん」が出没していた。
自分の性器を街中でさらけ出し、女性が「きゃあッ!」と言って恥ずかしがったり、「気持ち悪い!」と言って軽蔑したりする様子を見ることに、最高の性的興奮を感じるという性癖を持ってしまった彼らには、ああ、一体どのような過去があるのだろう。それともそれは、先天的なものなのだろうか。

また、どのような経緯であれ、「街中で性器を露出することに最高の快楽を覚える」という性癖を持ってしまったからには、自分の欲望を満たすためは罪を犯すしかないのだ。だから、社会的な制裁を受けることは、そのような性癖を持ってしまったものの宿命、とも言えるのかもしれない。

ただ、その一瞬の快楽は、他の全てを失ってもいいと思ってしまうほどに、魔力的に最高なものなのでしょうか。
性器露出おじさん、私はそれを聞きたい。

 

懲役は、1年か3年だった(うろ覚え)。

 

また、こちらの裁判はほぼ満席だったのだけど、その理由はおそらく「わいせつ系裁判傍聴マニア」の存在だ。
最前列に、それらしき方々が何名かいた。60代くらいの男性が多かった。下衆な気持ちを隠す気もなさそうで、純粋にすごいな……と思った。

 


さて前置きが長くなってしまった。
では今度こそ本当に、傍聴記録①「覚せい剤」。

 

被告人は、がっちりとした体格の、マスクをつけた短髪の男性。のちに38歳だとわかったが、年齢よりも若く見えた。
名前や住所も、大きめの声ではっきりと答えていた。起訴内容は覚醒剤の所持、使用だ。

 

そして最初に、証人喚問がおこなわれた。裁判長が「それでは証人は証言台の前へ」と言うと、私たちの横の傍聴席に座っていた夫婦らしき男女の女性の方が、立ち上がり証言台の前へと向かった。女性が着ていたスーツはしわしわだった。

 

「それでは、宣誓書を読み上げてください」と、裁判長。

 

ちなみに、証人はみな、証言の前に嘘偽りを述べないという旨の宣誓書を読みあげる決まりがある。

 

「はい、ええと…… 宣誓、良心に従って……」
と、女性は途中で、言葉に詰まってしまった。そして、ハンカチで涙をぬぐい、ひと呼吸おいて言い直した。

 

「宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」

そして、「すみません」と言ってまた涙をぬぐった。

 

答弁がはじまり、「あなたは被告人の母親で間違いないですね?」と弁護人が質問すると、彼女は「はい」と答えた。

 

涙を流したあたりで薄々わかったが、証人は母親だった。せ、切ねえ……。

 

弁護人 「被告人が覚せい剤を使用していたことを逮捕前に知っていましたか?」

 

母 「息子は大変まじめで意志の強い人間でして、だからこそ本人の意志の力を信じすぎてしまいました。私の覚せい剤についての認識が甘く、うんぬんかんぬん……」

 

弁護人 「ええと私が質問しているのは、息子さんが逮捕される前に、息子さんが再び覚せい剤を所持・使用していたことを知っていたかどうか、とうことです」(被告人は再犯)

 

母 「あ、はい。ええと…… それについては、知りませんでした」

 

とまあ、被告人の母親は終始このような感じで、弁護人や裁判長からの質問に的確に答えることができず、質問への解答というよりも、自分のふがいなさを嘆いたり息子をかばったりする発言を長々とするのだった。
もともと論理的な受け答えが苦手な人なのかもしれないが、私は事件を受けて母親が動揺している印象を感じ取った。彼女のスーツのしわも多分。

 

しかし実は、この母親の動揺には、事件の主題である「被告人の覚せい剤の使用」よりも大きな原因があったのだった。

 

その原因は、以下のやり取りを端緒として明らかになっていく。ここからは母親の的外れな受け答えは省略させていただくが、実際はほぼすべての質問に対して最初は見当違いの言い訳や説明や懺悔をしていて、弁護人を困らせていた。

 

弁護人「あなたは、事件後に息子さんから、彼自身のセクシュアリティと病気のことについてお聞きしましたか?」

 

母親「はい、息子が、そういうふうなんだ、ってことは」

 

弁護人「そういうふう、というのは、ゲイということで間違いありませんか」

 

母親「……はい、そうです」

 

弁護人「では、ご病気の方はどうでしょうか?」

 

母親「……はい、聞きました」

 

弁護人「病名は、お聞きしましたか」

 

母親「はい……HI…V、です」

 

ここからは概要を説明するが、被告人には物心ついたときから「自分はゲイだ」という自覚があった。だが、家族にカミングアウトすることはできず、専門学校卒業後は家を出て飲食店で働きながら、プライベートでは男性との性交渉を重ねた。そして、25歳の時にHIVを発症してしまう。HIVの発症も家族には言えず、被告人は孤独感や絶望を紛らわすために覚せい剤に手を出してしまい、ある日とうとう警察に捕まってしまう。

 

さてそんなことが起きたのが何年か前であり、なんと被告人はその時の裁判では自分がゲイであることとHIVに感染していることは隠し続けたのである。彼は隠し続けながら裁判を受け、刑期を終え、社会復帰を果たすも、自分が犯した罪の根本的な動機を解決できなかったため、やはり再び孤独感と絶望にのみこまれていく。その時のことを被告人は、「家族にHIVが移ってしまう可能性が怖くて、家族とは出所後も距離を置いていた。隠し続けるのは非常につらかった」と語った。

 

そうして再び被告人は覚せい剤に手を出してしまうのだが、今回は事件後に、隠すことに限界を感じていたこともあり、家族にカミングアウトしたのだった。

 

彼は、12年間、事実を隠し続けていた。

 

12年間!

 

12年間もの間、自分にとっての1番の悩み・自分という存在の核の部分を、もっとも近しい者に対して隠し続けることを想像してみてほしい。
私だったら、つぶれてしまうと思う。だけど、関係が近くて大切に思っているからこそ、言えないことって、ある。被告人の心情を想像すると、軽薄だが本当に胸が痛んだ。

 

母親は、法廷で、「ゲイ」という言葉を口にしなかった。そこから判断するに、母親はきっと俗に言う「LGBT」に対しては、嫌悪や理解できないという気持ちを少なからず持っている(た)んじゃないかな、と私は思った。

 

被告人はきっと、そんな母親の考えをなんとなく知っていて、だからこそ母親を、そして家族を悲しませたくなくて、12年間セクシュアリティと病気のことを自身の胸の奥に隠し続けた。
覚せい剤は、彼にとって精一杯のSOSだったのか。

 

さて、今回の事件後には、兄弟が呼びかけて、家族会議が開かれたようだ。そこでは、「みんなで一緒に解決に向かって進んでいこう」という結論に至った。

 

母親も、「出所後は息子と一緒に住んで、一緒にこれからのことを考えていきたい」と最後に言った。

 

また被告人が逮捕前も家族で唯一親しく付き合っていてよく会っていたという祖母も、高齢で身体はもう弱くなっているけれど、「あなたが帰ってくることを生きがいにしてそれまで生きて待っている」という言葉を彼に送った。

 

そして、「最後に被告人、何か言い残したことはありますか?」

という裁判長の問いかけに被告人は、

 

「罪を償い、帰ってきますので、それまでどうか元気で待っていてください」

 

と、主語のない一文を、裁判長をまっすぐ見つめながら、答えた。

 

 

以上が傍聴記録①「覚せい剤」の記録である。

このような、当事者以外の人間にとってはとるに足らないことかもしれないが、大きな大きな人間ドラマが、毎日裁判所では繰り広げられている。

 

きっと裁判傍聴後は、毎日のニュースの見方も変わるかもしれない。
裁判傍聴は無料である。ぜひ、一度行ってみることを私は心からおすすめする。

 

そして、次回は傍聴記録②「大麻」をお届けしたい。

 

……

 

ああ、なんか渋声の男性ナレーターを起用するようなルポルタージュ番組を意識していたら面白くなってきちゃいましたね(自分だけ)。

ただ、次回以降もめっちゃ強調しますけど裁判傍聴、ほんっとうに良かったので、特に4月から社会人になって平日に時間をつくるのが難しくなる人は、3月までにぜひ行ってみてください!!!


では、傍聴記録②「大麻」は、私が今までの人生で出会った人間の中で1.2位を争うほど「やばい」青年が登場しますので、さりげなく楽しみにしててくださるとうれしいです。

 

 

それでは、アディオス。